O157 Q&A

【O157の特徴について】

1 「O157」ってなに?
2 「O157」ってどういう意味?
3 O157のほかに病気を起こす大腸菌があるの?
4 O157は毒素を出すと聞いたけれど?
5 DNAパターン分析ってなに?

【O157の発生状況について】

6 O157は、最近見つかった細菌なの?
7 O157はどこからうつるの?
8 これまでどのくらい発生があったの?
9 これからもO157は発生しそうなの?
10 どんな時期にO157は発生しやすいの?
11 O157がハエについてるの?

【O157の予防方法について】

(家庭での予防)
12 予防は可能なの?
13 予防方法を教えて!
14 最近、HACCPってよく聞くけどなに?
15 食品はどうやって殺菌したらいいの?
16 野菜にも気をつけた方がよいのでしょうか?
17 まな板やフキンをしっかり洗うようにと言われますが、どのように洗浄すればよいのですか?
18 電子レンジで加熱しても菌は死滅するのですか?
19 食器乾燥機を使うと菌の増殖は抑えられますか?

(食品の安全性)

20 食肉は熱を通せば大丈夫ですか?
21 生ハムなどの食肉製品は大丈夫ですか?
22 低温殺菌の牛乳でも、菌は殺菌されていますか?
23 子供にヨーグルトを食べさせたいのですが、ヨーグルトの衛生管理は大丈夫ですか?
24 お寿司は大丈夫ですか?
25 梅干し、お茶などがよいと聞くけど本当ですか?
26 輸入食品はどんな検査をしているのですか?
27 水道水は安全だと聞きましたが、井戸水やマンションの受水槽の水も安全ですか?
28 浄水器を通した水はカルキが減ると聞きましたが、飲んでも安全ですか?
(その他)
29 外食する時O157に感染しないか心配です。大丈夫でしょうか?
30 プールの中でO157に感染することがありますか?
31 公衆浴場・温泉で感染することがありますか?

【O157の症状と診断について】

32 O157に罹るとどんな症状がでるの?
33 血便があるのですが、O157に感染したのでしょうか?
34 HUSってなに?
35 O157は人からうつるの?
36 母乳から感染することはありますか?
37 どんな検査をするとO157だとわかるの?
38 診断薬は開発されたの?

【O157の治療方法について】

39 下痢の時にはどうしたらいいの?
40 市販の薬はつかっていいの?
41 治療薬はできたのでしょうか?
42 万一感染していたら家族はどんなことに注意したらいいの?
43 検便を受けたところ症状はないのですが、O157が検出されたといわれたのですがどうすればよいですか?

【指定伝染病について】

44 伝染病に指定されてどうなったの?
45 飲食店を経営していますが、伝染病予防法が適用されるとどうなるのですか?
46 飲食店のウェイトレス等が感染した場合に、業務から離れなければいけませんか?

【行政の対応について】

47 厚生省ではどんな対策を行っているの?
48 O157についてどんな研究をしているの?
49 どこに相談すればいいの?




Q1  「O157」ってなに?
 大腸菌は、家畜や人の腸内にも存在します。ほとんどのものは無害ですが、このうちいくつかのものは、人に下痢などの消化器症状や合併症を起こすことがあり、病原大腸菌と呼ばれています。病原大腸菌の中には、毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群を起こす腸管出血性大腸菌と呼ばれるものがあります。
 腸管出血性大腸菌は、菌の成分(「表面抗原」や「べん毛抗原」などと呼ばれています)によりさらにいくつかに分類されています。「O157」はこの腸管出血性大腸菌の一種で、毒素により出血性腸炎を起こすことから、正式には「腸管出血性大腸菌O157」と呼ばれています。
 腸管出血性大腸菌O157は、家畜や人の糞便中に時々見つかります。家畜では症状を出さないことが多く、外観上、菌を保有する家畜かどうかの判別が困難です。
Q2  「O157」ってどういう意味?
 大腸菌は、O抗原(細胞壁由来)とH抗原(べん毛由来)により細かく分類されています。「O157」とはO抗原として157番目に発見されたものを持つという意味です(現在約180に分類されています)。
 さらに細かく分類するとO157でも、毒素(ベロ毒素)を産生し溶血性尿毒症症候群(HUS)などの重篤な症状を起こすものは、H抗原がH7(O157:H7)とH−のもの(O157:H−)の2種類です。
Q3  O157のほかに病気を起こす大腸菌があるの?
 大腸菌には病原性のないものから、O157のように強い病原性を有するものまで様々な種類のものがあります。O157は菌の構成成分の性質からみた分類ですが、大腸菌は病気の起こし方によって、主として以下の5つに分類されます。
1. 腸管病原性大腸菌:小腸に感染して腸炎等を起こします。
2. 腸管組織侵入性大腸菌:大腸(結腸)粘膜上皮細胞に侵入・増殖し、粘膜固有層にびらんと潰瘍を形成する結果、赤痢様の症状を引き起こします。
3. 腸管毒素原性大腸菌:小腸上部に感染し、コレラ様のエンテロトキシンを産生する結果、腹痛と水様性の下痢を引き起こします。
4. 腸管出血性大腸菌(ベロ毒素産生性大腸菌、志賀毒素産生性大腸菌):赤痢菌が産生する志賀毒素類似のベロ毒素を産生し、激しい腹痛、水様性の下痢、血便を特徴とし、特に、小児や老人では、溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症(けいれんや意識障害など)を引き起こしやすいので注意が必要です。
 近年、食中毒の原因となっているものは、O157がほとんどですが、腸管出血性大腸菌にはこの他にO26、O111、O128およびO145などがあります。
5. 腸管凝集性大腸菌:主として熱帯や亜熱帯の開発途上国で長期に続く小児などの下痢の原因菌となります。我が国ではまだほとんど分離報告がありません。
Q4  O157は毒素を出すと聞いたけれど?
 O157は、毒力の強いベロ毒素(志賀毒素群毒素)を出し、溶血性尿毒症症候群などの合併症を引き起こすのが特徴です。溶血性尿毒症症候群(HUS)が発症する機構は十分には解明されていませんが、この毒素が身体の中で様々な障害を起こすことによって、症状を出すものと考えられています。
 ベロ毒素には、赤痢菌の出す志賀毒素と同じ1型(VT1)と、それと異なる構造を持つ2型(VT2)及びこれらの亜型があります。
 O157には、これらの毒素のうち1つもしくは複数を出すものがあります。
Q5  DNAパターン分析ってなに?
 生物の遺伝情報をつかさどるDNAはA(アデニン)、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)の4種の塩基からなり、この配列は個体により異なっていることがわかっています。これを利用してO157をDNA分析と呼ばれる方法で解析すると、汚染原因菌の由来が同じ株によるものかどうか、更にはO157による汚染源が、同じかどうかを推定することができます。O157に対するDNA分析法として、現在、主に「パルスフィールドゲル電気泳動(PFGE)」と呼ばれる方法がもちいられています。これは、O157のDNAを制限酵素で切断処理後、寒天(ゲル)の中で特殊な電気泳動を行い、そこから得られるDNAのパターンを比較する方法です。このパターンは、数十本からなるDNAの断片が作り出すもので、丁度、いろいろな製品についているバーコードの帯に似ています。
 これまで、国内で集団発生を起こしたO157のDNAパターンの分析結果から、これらの菌は大きく6つの型に分類されています。しかし、散発事例の多くは、上記の6つの型以外のものによっておこされており、細かくみると、200種類以上のパターンがみられています。
Q6  O157は、最近みつかった細菌なの?
 O157は昭和57年(1982年)アメリカオレゴン州とミシガン州でハンバーガーによる集団食中毒事件があり、患者の糞便から原因菌として見つかったのが最初で、その後アメリカだけでなくアルゼンチン、イギリス、イタリア、インド、オーストラリア、カナダ、スウェーデン、スペイン、チリ、ドイツ、ニュージーランド、フランス、ロシア、中国、南アフリカなど世界各地で見つかっています。
Q7  O157はどこからうつるの?
 O157の感染事例の原因食品等と特定・推定されたものは、国内では井戸水、牛肉、牛レバ刺し、サラダ、貝割れ大根、シーフードソース、シカ肉、キャベツ、白菜漬け、日本そば、メロンなどです。海外では、ハンバーガー、ローストビーフ、ミートパイ、レタス、アップルジュースなどです。
また、国内で流通している食品の汚染実態を調査したところ、牛肉、内臓肉及び菓子から菌が見つかったという報告もあります。
 日本からも専門家が参加した平成9年4〜5月に開催された世界保健機関(WHO)の専門家の会議でも、ハンバーガー、ローストビーフ、生乳、アップルジュース、ヨーグルト、チーズ、発酵ソーセージ、調理トウモロコシ、マヨネーズ、レタス、貝割れ大根のような芽野菜が原因として指摘されています。
 このようにO157は様々な食品や食材から見つかっていますので、食品の洗浄や加熱など衛生的な取扱いが大切です。
 なお、動物と接触することにより感染した事例も報告されております。
Q8  これまでどのくらい発生があったの?
 昭和57年(1982年)、アメリカでハンバーガーが原因で起きた食中毒事件をきっかけに、O157による食中毒が次々と報告され、アメリカだけでなく、カナダ、イギリス、ドイツ、オーストラリア、イタリアというように、世界的な広がりを見せました。
 日本では、平成2年(1990年)に埼玉県浦和市の幼稚園で井戸水が原因で、患者数319名、死者2名という集団発生がありました。その後、毎年数件発生していましたが、平成8年(1996年)5月、岡山県邑久町で、O157による集団食中毒が発生し468名の患者及び2名の死者が出ました。6月に入ると岐阜県岐阜市、広島県東城町、愛知県春日井市、福岡県福岡市、岡山県新見市、大阪府河内長野市、東京都板橋区、群馬県境町と集団発生(10名以上)が8件、そのほかにも散発事例が多数続発しましたが、春日井市、福岡市及板橋区の事例を除き、すべて学校給食が原因もしくは原因と疑われる事例でした。さらに、7月には堺市では有症者累計5,727名、死者3名の集団食中毒が発生しました。その後も大阪府羽曳野市(7月)、京都府京都市(7月)、和歌山県橋本市(7月)、和歌山県御坊市(7月)、北海道千歳市(8月)、岩手県盛岡市(10月)、北海道帯広市(11月)において集団発生しました。この結果、平成8年は最終的に9,451名の患者、12名の死者が発生しました。
 平成9年に入っても発生が報告されており、8月10日現在患者894名、死者3名となっています。これらは、ほとんどが家庭における散発事例ですが、3月には関東南部及び東海地区で短期間に集中して発生した事例や、6月に岡山県の病院さらに7月に千葉県の保育園で集団発生した事例があります。
 また、海外では平成8年(1996年)には、10月に米国オレゴン州においてアップルサイダーによる集団発生(66名感染、1名死亡)、12月に英国スコットランドにおいてミートパイによる集団発生(400名以上が感染、20名が死亡)等諸外国においてもO157による集団食中毒が発生し、世界的にもO157について関心が高まっています。
Q9  これからもO157は発生しそうなの?
 平成9年の発生状況を見ますと8月10日現在で、45都道府県から894名の患者が出ています。
また、海外でも発生が続いています。
 前述(Q7)の世界保健機関(WHO)の専門家の会議でも広範な食品が感染媒体となっており、注意が必要と指摘しています。
 さらに、これまでO157が夏場に多発しているものの、その他の季節にも発生していることから、常にO157の発生はあるものと警戒し、十分な注意が必要です。
Q10  どんな時期にO157は発生しやすいの?
 食中毒は一般に、気温が高い初夏から初秋にかけて多発します。この時期は、食中毒菌が増えるのに適した気温であり、これに人の体力の低下や食品などの不衛生な取扱いなどの条件が重なることにより発生しやすくなると考えられます。平成8年のO157の発生状況をみますと、5月488人、6月1,535人、7月6,589人、8月284人、9月273人、10月197人となっており、夏〜秋にかけて多いのが分かります。
 したがって、初夏〜初秋はO157多発期として、十分注意が必要です。
 しかしながら、気温の低い時期でも発生が見られることから、これらの季節にも注意が必要です。
Q11  O157がハエについているの?
 平成8年11月に、佐賀県内のO157の感染者が発生した施設において採取されたイエバエからもO157が検出されました。その後、他の県で採取されたイエバエからもO157が検出された例があります。
 これまでのところ、ハエ等とO157伝播との直接的な因果関係については不明ですが、ハエ等のいわゆる衛生害虫が、消化器系感染症を媒介しうることは昔から知られています。
 食品関係施設はもちろん、一般家庭においても、ハエ等の害虫対策にも注意を払って下さい。


Q12  予防は可能なの?
 O157はサルモネラや腸炎ビブリオなどの食中毒菌と同様加熱や消毒薬により死滅します。したがって、通常の食中毒対策を確実に実施することで十分に予防可能です。
Q13  予防方法を教えて!
 O157の予防のポイントは食品の衛生的取扱いです。平成9年3月に「家庭でできる食中毒予防の6つのポイント」が作成されました。
 これを確実に実行し、O157の感染を予防しましょう。
 家庭でできる食中毒予防の6つのポイント (平成9年3月31日作成)
−家庭で行うHACCP(宇宙食から生まれた衛生管理)−
 1996年は、学校給食等が原因となった、過去に例を見ない規模の腸管出血性大腸菌O157による集団食中毒が多発しました。1997年に入っても、家庭が原因と疑われる散発的な発生が続き、死亡した例も報告されています。食中毒は家庭でも発生します。
 食中毒というと、レストランや旅館などの飲食店での食事が原因と思われがちですが、毎日食べている家庭の食事でも発生していますし、発生する危険性がたくさん潜んでいます。
 ただ、家庭での発生では症状が軽かったり、発症する人が1人や2人のことが多いことから風邪や寝冷えなどと思われがちで、食中毒とは気づかれず重症になったり、死亡する例もあります。
あなたの食事作りをチェックしてみましょう!
食中毒予防のポイントは6つです。
ポイント 1 食品の購入
ポイント 2 家庭での保存
ポイント 3 下準備
ポイント 4 調理
ポイント 5 食事
ポイント 6 残った食品


ポイント 1 食品の購入

肉、魚、野菜などの生鮮食品は新鮮な物を購入しましょう。
表示のある食品は、消費期限などを確認し、購入しましょう。
購入した食品は、肉汁や魚などの水分がもれないようにビニール袋などにそれぞれ分けて包み、持ち帰りましょう。
特に、生鮮食品などのように冷蔵や冷凍などの温度管理の必要な食品の購入は、買い物の最後にし、購入したら寄り道せず、まっすぐ持ち帰るようにしましょう。

ポイント 2 家庭での保存

冷蔵や冷凍の必要な食品は、持ち帰ったら、すぐに冷蔵庫や冷凍庫に入れましょう。
冷蔵庫や冷凍庫の詰めすぎに注意しましょう。めやすは、7割程度です。
冷蔵庫は10度C以下、冷凍庫は、−15度C以下に維持することがめやすです。
温度計を使って温度を計ると、より庫内温度の管理が正確になります。
細菌の多くは、10度Cでは増殖がゆっくりとなり、−15度Cでは増殖が停止しています。しかし、細菌が死ぬわけではありません。早めに使いきるようにしましょう。
肉や魚などは、ビニール袋や容器に入れ、冷蔵庫の中の他の食品に肉汁などがかからないようにしましょう。
肉、魚、卵などを取り扱う時は、取り扱う前と後に必ず手指を洗いましょう。
せっけんを使い洗った後、流水で十分に洗い流すことが大切です。
簡単なことですが、細菌汚染を防ぐ良い方法です。
食品を流し台の下に保存する場合は、水漏れなどに注意しましょう。また、直接床に置いたりしてはいけません。

ポイント 3 下準備

台所を見渡してみましょう。
ゴミは捨ててありますか?
タオルやふきんは清潔なものと交換してありますか?
せっけんは用意してありますか?調理台の上は かたづけて広く使えるようになっていますか?もう一度、チェックをしましょう。
井戸水を使用している家庭では、水質に十分注意してください。
手を洗いましょう。
生の肉、魚、卵を取り扱った後には、また、手を洗いましょう。
途中でペット等動物に触ったり、トイレに行ったり、おむつを交換したり、鼻をかんだりした後の手洗いも大切です。
肉や魚などの汁が、果物やサラダなど生で食べる物や調理の済んだ食品にかからないようにしましょう。
生の肉や魚を切った後、洗わずにその包丁やまな板で、果物や野菜など生で食べる食品や調理の終わった食品を切ることはやめましょう。
洗ってから熱湯をかけたのち使うことが大切です。
包丁やまな板は、肉用、魚用、野菜用と別々にそろえて、使い分けるとさらに安全です。
ラップしてある野菜やカット野菜もよく洗いましょう。
冷凍食品など凍結している食品を調理台に放置したまま解凍するのはやめましょう。室温で解凍すると、食中毒菌が増える場合があります。
解凍は冷蔵庫の中や電子レンジで行いましょう。また、水を使って解凍する場合には、気密性の容器に入れ、流水を使います。
 料理に使う分だけ解凍し、解凍が終わったらすぐ調理しましょう。
解凍した食品をやっぱり使わないからといって、冷凍や解凍を繰り返すのは危険です。 冷凍や解凍を繰り返すと食中毒菌が増殖したりする場合もあります。
包丁、食器、まな板、ふきん、たわし、スポンジなどは、使った後すぐに、洗剤と流水で良く洗いましょう。ふきんのよごれがひどい時には、清潔なものと交換しましょう。漂白剤に1晩つけ込むと消毒効果があります。
包丁、食器、まな板などは、洗った後、熱湯をかけたりすると消毒効果があります。たわしやスポンジは、煮沸すればなお確かです。

ポイント 4 調理

調理を始める前にもう一度、台所を見渡してみましょう。
下準備で台所がよごれていませんか?タオルやふきんは乾いて清潔なものと交換しましょう。そして、手を洗いましょう。
加熱して調理する食品は十分に加熱しましょう。
加熱を十分に行うことで、もし、食中毒菌がいたとしても殺すことができます。めやすは、中心部の温度が75度Cで1分間以上加熱することです。
料理を途中でやめてそのまま室温に放置すると、細菌が食品に付いたり、増えたりします。途中でやめるような時は、冷蔵庫に入れましょう。
再び調理をするときは、十分に加熱しましょう。
電子レンジを使う場合は、電子レンジ用の容器、ふたを使い、調理時間に気を付け、熱の伝わりにくい物は、時々かき混ぜることも必要です。

ポイント 5 食事

食卓に付く前に手を洗いましょう。
清潔な手で、清潔な器具を使い、清潔な食器に盛りつけましょう。
温かく食べる料理は常に温かく、冷やして食べる料理は常に冷たくしておきましょう。めやすは、温かい料理は65度C以上、冷やして食べる料理は10度C以下です。
調理前の食品や調理後の食品は、室温に長く放置してはいけません。
例えば、O157は室温でも15〜20分で2倍に増えます。

ポイント 6 残った食品

残った食品を扱う前にも手を洗いましょう。
残った食品はきれいな器具、皿を使って保存しましょう。
残った食品は早く冷えるように浅い容器に小分けして保存しましょう。
時間が経ち過ぎたら、思い切って捨てましょう。
残った食品を温め直す時も十分に加熱しましょう。めやすは75度C以上です。
味噌汁やスープなどは沸騰するまで加熱しましょう。
ちょっとでも怪しいと思ったら、食べずに捨てましょう。口に入れるのは、やめましょう。
食中毒予防の三原則は、食中毒菌を「付けない、増やさない、殺す」です。

「6つのポイント」はこの三原則から成っています。

 これらのポイントをきちんと行い、家庭から食中毒をなくしましょう。
 食中毒は簡単な予防方法をきちんと守れば予防できます。
 それでも、もし、お腹が痛くなったり、下痢をしたり、気持ちが悪くなったりしたら、かかりつけのお医者さんに相談しましょう。
Q14  最近、「HACCP」ってよく聞くけどなに?
 有効な食中毒対策を行うためには、食中毒を起こす菌をよく認識し、これらの菌が調理過程のどこで食品を汚染し増殖するのかを明らかにすることが重要です。
 その上で食中毒菌の汚染や増殖を防ぐ方法を調理過程に組み込むことが必要です。このような予防方法を確実に行うための新しい方法が「HACCP」と呼ばれる衛生管理方法です。
 これは、米国航空宇宙局(NASA)での宇宙食の開発に当たって、高度に安全性を保証する方式として確立された「危害分析に基づく、重要管理点(HACCP)方式」で、食品の製造・加工の工程で発生するおそれのある微生物汚染等の危害を分析し、特に重点的に管理する事項を決め、これが守られているかを常時監視するものです。
Q15  食品はどうやって殺菌したらいいの?
 O157は75℃で1分間以上の加熱で死滅します。
 この他、食品に用いる殺菌剤として、次亜塩素酸ナトリウムが食品添加物としてその使用が認められています。
 この効果や使用方法は、種類、濃度、つけおき時間、食品の種類によって異なりますので、各製品の使用説明書をよく読んで使ってください。
 なお、平成8年度厚生科学研究事業により実施した研究によれば、野菜の除菌には湯がき(100℃の湯で5秒間又は60℃の湯で1分間)が有効であるとされています。
Q16  野菜にも気をつけた方がよいのでしょうか?
 野菜が原因とされる発生も報告されています。したがって野菜の衛生管理にも十分注意して下さい。具体的には、以下の事項に気をつけて下さい。
(1) 野菜は新鮮なものを購入し、冷蔵庫で保管するなど保存に気をつける。
(2) ブロッコリーやカリフラワーなどの形が複雑なものは、熱湯で湯がく。
(3) レタスなどの葉菜類は、一枚ずつはがして流水で十分に洗う。
(4) きゅうりやトマト、りんごなどの果実もよく洗い、より安全というなら皮を
むいて食べる。
(5) 食品用の洗浄剤や次亜塩素酸ナトリウムなどの消毒剤を使ったり、加熱する
と殺菌効果がより高まります。
Q17  まな板やフキンをしっかり洗うようにとよく言われますが、どのように洗浄すればよいのですか?
 まな板は、使用の都度、洗浄剤でしっかり洗い、熱湯または次亜塩素酸製剤(台所用漂白剤)で、消毒するとよいでしょう。
 また、野菜やくだものなど生食用食品に用いるまな板と、肉や魚などに用いるまな板は使い分けることが必要です。
 平成8年度厚生科学研究事業によれば、まな板は
(1) 洗剤(台所用合成洗剤)洗浄 →水洗浄 → 湯(55℃)すすぎ→沸騰水かけ
(2) 洗剤(台所用合成洗剤)洗浄 →水洗浄 →湯(55℃)すすぎ →次亜塩素酸(200ppm、1時間)
(1)、(2)いずれの方法でも、大腸菌群は検出されなくなりました。
 なお、傷ついた古いまな板(特に木製)は、十分に洗浄されにくいので、注意しましょう。
 フキンやスポンジは菌が増殖しやすいので、十分煮沸したり、十分消毒することが大切です。
 その上で、よく乾燥しておくことを心がけましょう。
Q18  電子レンジで加熱しても菌は死滅するのですか?
 O157は75℃で1分間以上の加熱で死滅します。レンジで調理する時も、食品全体をむらなく75℃で1分間以上、加熱すれば菌は死滅します。
 電子レンジを使う場合は、電子レンジ用の容器、ふたを使い、調理時間に気を付け、熱の伝わりにくい物は、時々かき混ぜることも必要です。
 しかし、単に食べ物を温めるだけでは菌は死滅しないので注意が必要です。
Q19  食器乾燥機を使うと菌の増殖は抑えられますか?
 細菌の増殖には水分が必要です。従って、細菌の増殖を防止するために食器類を十分洗った後、水滴を拭き取り、乾燥させることが有効です。また、十分な加熱により菌は死滅します。このため、食器乾燥機で食器を加熱・乾燥させるのは、菌を死滅させたり、菌の増殖を抑えるためには、有効と考えられます。
Q20  食肉は、熱を通せば大丈夫ですか?
 O157は75℃で1分間以上の加熱で死滅しますので、食肉等も加熱して食べる限り、安全です。
 なお、レバー等の食肉を生で食べることはひかえましょう。
Q21  生ハムなどの食肉製品は大丈夫ですか?
 生ハムを含め、食肉製品は、熱、水分活性、pH及び保存温度により微生物の制御ができるよう、製造基準並びに保存基準が設けられており、許可を受けた施設において、適切な温度管理のもとに、適切な方法により、製造・保存されています。したがって、定められた基準を遵守して製造・保存されている限り、食品衛生上の問題はありません。
Q22  低温殺菌の牛乳でも、菌は殺菌されていますか?
 低温殺菌牛乳の殺菌条件である、62〜65℃で30分の加熱殺菌で、O157は死滅します。
Q23  子供にヨーグルトを食べさせたいのですが、ヨーグルトの衛生管理は大丈夫ですか?
 ヨーグルトは、発酵乳として規格基準が定められており、その原料を62℃で30分間加熱殺菌するか、又は、これと同等以上の殺菌効果を有する方法で殺菌しなければなりません。この殺菌条件でO157は死滅します。また、成分規格では、O157を含む大腸菌群が陰性であることが決められています。
Q24  お寿司は大丈夫ですか?
 お寿司が原因で、O157による食中毒が発生したという報告はこれまでありません。
 生ものでも衛生的に取り扱われていれば安心です。
Q25  梅干し、お茶などがよいと聞くけど本当ですか?
 梅干し、お茶などO157予防に効果があると言われているものがありますが、科学的な知見が十分あるわけではありません。
 したがって、これらに頼ることなくO157予防のためには加熱、洗浄、殺菌など食品の衛生的な取扱いを確実に行ってください。
Q26  輸入食品はどんな検査をしているのですか?
 輸入食品については、食品衛生法に基づき、検疫所において輸入時の監視が行われています。
 国内におけるO157による食中毒事例の原因究明のため、横浜及び神戸の輸入食品・検疫検査センター等においてモニタリング検査(抜き取り検査)を実施しています。また、牛肉を輸入する営業者に対しては、O157について自主的に検査して、汚染がないことを確認した後で販売するよう指導しています。
Q27  水道水は安全だと聞きましたが、井戸水やマンションの受水槽の水も安全ですか?
 水道水の残留塩素濃度は、水道法で蛇口部分で0.1mg/ネ以上と定められており、この濃度で大腸菌は十分死滅します。従って、一般に水道水は塩素消毒がきちんとされているので安全です。ただし、長期間水道を利用しなかった場合には、水道管内に水がたまっていたため、残留塩素濃度が低くなっていることがあります。そのような場合は、水をしばらく流してから使用するようにしてください。
 また、井戸水については大腸菌の有無、共同住宅(マンションなど)の受水槽については残留塩素の有無を設置者または管理者が定期的に検査するよう指導しています。なお、有効容量10立方メートルを超える共同住宅の受水槽については定期的な検査が義務づけられています。水質検査の結果、異常がなければ安心ですので、検査を受けるようにして下さい。
Q28  浄水器を通した水はカルキが減ると聞きましたが、飲んでも安全ですか?
 塩素消毒がきちんとされている水道水であれば、大腸菌については問題ありません。しかし、浄水器を通した水は、含有塩素量が減少しているため、長期間汲み置きした水は飲まない方がよいと思われます。また、長期間使用しない場合は、その後に使用する前に、水をしばらく流してから使用するようにして下さい。なお、カートリッジの使用期間等使用上の注意をしっかり守り、清潔に保つことが重要です。
Q29  外食する時O157に感染しないか心配です。大丈夫でしょうか?
 厚生省は都道府県等を通じ、飲食店に対して衛生管理の徹底を指導し、安全性の確保に努めていますのでいたずらな不安は無用です。
Q30  プールの中でO157に感染することはありますか?
 市民プール、民間のプール等のいわゆる遊泳用プールについては基準が設定されており、それに従い定期的に塩素濃度を測定して、殺菌力が低下した場合には殺菌剤を追加するとともに、大腸菌群が含まれていないかどうか調査しています。
 家庭用プールについては、水道水(いわゆる上水道の水)を利用し、使用のたびに水を交換しましょう。また、患者や下痢をしている子供などは、その中に入ることを避けましょう。
Q31  公衆浴場・温泉で感染することがありますか?
 公衆浴場や温泉では、1日1回以上浴槽水をいれかえるなど消毒・清掃の徹底を講じています。
 また、公衆浴場や温泉の営業者は、利用者が浴槽に入る前に、せっけんを用いて体を洗ってもらったり、下痢症状のある方の共同浴場への入浴を念のため控えてもらうようお願いし、安全性の確保に努めています。
 なお、浴槽水を飲まないようにしましょう。
Q32  O157に罹るとどんな症状がでるの?
 O157の感染では、全く症状がないものから軽い腹痛や下痢のみで終わるもの、さらには頻回の水様便、激しい腹痛、著しい血便とともに重篤な合併症を起こし、時には死に至るものまで様々なものがあります。しかし、多くの場合(感染の機会のあった者の約半数)は、おおよそ3〜5日の潜伏期をおいて頻回の水様便で発病します。さらに激しい腹痛を伴い、まもなく著しい血便となることがありますが、これが出血性大腸炎です。発熱はあっても、多くは一過性です。
 これらの症状の有る者の6〜7%では、下痢などの初発症状の数日から2週間以内(多くは5〜7日後)に溶血性尿毒症症侯群(HUS)や脳症などの重症合併症が発症します。
 なお、激しい腹痛と血便がある場合には、特に注意が必要です。
Q33  血便があるのですが、O157に感染したのでしょうか?
 血便の原因には、O157等の腸管出血性大腸菌感染症以外にも、細菌性赤痢などの他の感染症、腸重積、大腸がん、あるいは痔疾(ぢ)など、さまざまな原因があります。原因を調べるためには、医療機関で検査を受けることが必要です。腸管出血性大腸菌感染症だけをいたずらに恐れずに、症状があるときには医師に相談してください。
Q34  HUSってなに?
 HUSとは溶血性尿毒症症侯群(Hemolytic Uremic Syndrome)の略です。様々な原因によって生じる血栓性微小血管炎(血栓性血小板減少性血管炎)による急性腎不全であり、(1)破砕状赤血球を伴った貧血、(2)血小板減少、(3)腎機能障害を特徴とします。HUSの初期には、顔色不良、乏尿、浮腫、意識障害などの症状が見られます。
 HUSはO157感染の重症合併症の一つであり、子どもと高齢者に起こりやすいので注意が必要です。
Q35  O157は人からうつるの?
 O157などの腸管出血性大腸菌の感染は、飲食物を介した経口感染であり、菌に汚染された飲食物を摂取したり、患者の糞便に含まれる大腸菌が口に入ることによって感染します。
 O157は100個程度の菌数でも感染すると言われていますが、感染するのは菌に汚染された飲食物を摂取したり、患者や保菌者の糞便で汚染されたものを口にした場合だけで、職場や学校で話をしたり、咳・くしゃみ・汗などでは感染しません。
 ヒトからヒトへの感染を予防する基本は手洗いです。排便後、食事の前、下痢をしている子どもや高齢者の世話をした後などは、せっけんと流水(汲み置きでない水)で十分に手洗いをしましょう。
 また、誤った知識からO157の患者さんなどが差別や偏見を受けることのないように気を付けましょう。
Q36  母乳から感染することはありますか?
 母乳の中にはO157は含まれていないので、母乳を介して感染することはありません。日頃から、清潔に心がけ、特に授乳の際には、乳首等を清潔にしてください。
Q37  どんな検査をするとO157だとわかるの?
 下痢の原因となる病原体には、O157等の病原大腸菌以外にもさまざまな細菌やウイルス、原虫などがいます。しかし、O157のように出血性大腸炎をおこし、HUS等の合併症をおこすのはベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌といわれるものです。
 下痢の原因が腸管出血性大腸菌によるものかどうかは、検便によって調べることができます。便から大腸菌が検出された場合には、「血清型」といわれる大腸菌の分類の検査を行います。「O157」という呼び名はこの血清型のことなのです。腸管出血性大腸菌の血清型にはO157以外にもO26やO111などがあります。
 また、全てのO157やO26がベロ毒素を産生しているわけではありませんので、その大腸菌がベロ毒素を産生するかどうかの検査も行われています。
Q38  診断薬は開発されたの?
 人の糞便中のO157の検出薬(診断薬)として承認されているものは、7製品あります(平成9年4月30日現在)。これらは、O157の菌を検出するためのもの、あるいは、菌が産生するベロ毒素を検出するためのものに分けられます。
 また、診断薬でも、人の糞便から菌を培養した後に、大腸菌がO157かどうか判定する診断薬と糞便からO157を直接数時間以内に検出する迅速検査の診断薬があります。ベロ毒素を検出する診断薬も、同じように、菌を培養した後に検査するものと直接糞便から迅速検査を行うものがあります。
Q39  下痢の時にはどうしたらいいの?
 O157は下痢の原因のごく一部にすぎません。下痢の原因がO157などの腸管出血性大腸菌であるかどうかを確認するために、必ず医師の診察を受けましょう。
 下痢の治療の基本は、安静、水分補給、消化しやすい食事の摂取などです。これらのことに気を付け、医師の指示に従いましょう。
 なお、下痢の付着した衣服ついては、他の人の衣服と別に洗濯するようにしましょう。
 (Q42参照)
Q40  市販の薬は使っていいの?
 O157などの腸管出血性大腸菌感染症と診断された場合には、医師の診断に基づいた治療を受けることが最も大切です。
 O157などの腸管出血性大腸菌による感染症の場合の治療には、使わない方が良いとされるいくつかの薬があります。たとえば、腸管の運動を抑える働きの下痢止め薬や痛み止め薬は、ベロ毒素が体外に排出されにくくなってしまうため使用を避け、かかりつけのお医者さんの診察を受けましょう。
Q41  治療薬はできたのでしょうか?
 現在、様々な方面から研究開発が進められており、抗生物質の有効な投与方法等種々の知見が得られているところです。一方、O157が産生するベロ毒素を腸管内で吸着し、糞便とともに体外に排泄することを効能・効果とする「ベロ毒素吸着剤」の開発が進められています。現在、各都道府県に少なくとも1カ所の治験実施施設を置き、全国的レベルでその有効性と安全性を検討するための試験が行われています。
Q42  万一感染していたら家族はどんなことに注意したらいいの?
 まず必要なことは、患者さんと同じ飲食物を摂取した家族が感染していないかどうか、あるいは患者さんから家族への2次感染がおきていないかどうかの健康診断(検便)を受けることです。同時に、家庭内の消毒についての知識を得て、必要な範囲での消毒を行います。また、2次感染予防のために、日常生活での患者さんとの接し方についての知識を得て実行することが大切です。これらのことは保健所の職員が指導しますので、良く聞いて、分からないことがあれば質問してください。

○家庭での主な注意点は以下の通りです。
・水洗トイレの取っ手やドアのノブなど菌で汚染されやすい場所を逆性石鹸や消毒用アルコールなどを使って消毒する。
・患者本人は調理や食事の前及び用便後に流水(汲み置きでない水)で十分に手を洗い、逆性石鹸や消毒用アルコールで消毒する。
・家族の者も食事前などは流水で十分に手を洗う。
・患者の便を処理する場合(おむつの交換など)にはゴム手袋や使い捨ての手袋などを用いる。ゴム手袋を用いた場合には使用後に消毒する。また、おむつ交換の場所は決めておく。
・患者の便で汚れた下着は、薬品などの消毒(つけおき)をしてから、家族のものとは別に洗濯する。また、煮沸をしても十分な消毒効果があります。
・患者はできるだけ浴槽につからず、シャワー又はかけ湯を使う。
・患者が風呂を使用する場合は他の家族と一緒にはいることは避け、乳幼児は患者の後に入浴しないように気を付ける。風呂の水は毎日替える。バスタオルは、ひとりで一枚を使用し、共用しない。

Q43  検便を受けたところ症状はないのですが、O157が検出されたといわれたのですがどうすればよいですか?
 検出されたO157がベロ毒素を産生しているかどうかの検査が必要です。O157だからといって、全ての菌がベロ毒素を産生する腸管出血性大腸菌だとは限らないからです。
 症状がないにもかかわらずベロ毒素を産生する菌であることが確認された場合、こうした人を「無症状の保菌者」といい、本人が病気でなくても、他の人にうつす可能性があるので、本人も他の人にうつさないように努力する必要があります。法律上は患者と同様に扱われますので、例えば、検便で菌が陰性になるまでの間は食品を直接に扱う仕事などにつくことが制限されます。
 なお、自然に菌が陰性化することもあり、引き続き検便を受けて菌が体内にいなくなったかどうかを観察する必要があります。また、抗菌剤を使って治療することも有効です。診断した医師とよく相談して対応を決めることが大切です。
Q44  伝染病に指定されてどうなったの?
 O157等の腸管出血性大腸菌感染症は、平成8年8月6日に、伝染病予防法の「指定伝染病」に指定されました。これは、この病気が2次感染を起こすために食品衛生以外の対応を含めた総合的で効果的な対策が必要だからです。しかし、人権上の配慮から、伝染病予防法の規定の中で必要最小限のものだけが適用されました。伝染病予防法に指定されたからといって無用の不安・偏見にとらわれたり、患者さんや保菌者の方(以下、患者さん等と書きます)の人権が損なわれたりすることがないように、正しい知識を身につけましょう。また患者さんのプライバシーを守りましょう。
 伝染病予防法で、O157などの腸管出血性大腸菌感染症に適用される規定の主なものは以下の通りです。
(1)医師の届け出
 医師は、O157などの腸管出血性大腸菌感染症の患者さん等を診断したときは保健所長に届け出なければなりません。
(2)消毒の実施
 患者さん等が公共施設を利用していた場合には、市町村は、都道府県知事の指示に従ってその施設の消毒を行わなければなりません。なお、患者さん等の家宅を強制的に消毒することはありません。
(3)就業制限
 患者さん等は、直接食品に接触する業務で、かつ他に感染させる可能性が高い業務に就いてはいけません。ただし、同じ職場内であっても、直接食品に接する業務以外の仕事に従事することは差し障りありません。例えば、飲食店の調理員をしてはいけませんが、会計係ならかまいません。就業制限は検便によって菌の陰性が確認されれば解除されます。
Q45  飲食店を経営していますが、伝染病予防法が適用されるとどうなるのですか?
 伝染病予防法の就業制限は、飲食物の調理など、食品に直接に触れる業務を行っている場合に、店にではなく、個人に対して適用されます。具体的には「Q46飲食店のウエイトレス等が感染した場合に、業務から離れなければいけませんか?」を参照してください。
 なお、その個人が飲食店を経営していても、販売した飲食物がO157感染の原因となった場合以外は、伝染病予防法に定められた「飲食物の販売制限」は適用されません。
Q46  飲食店のウェイトレス等が感染した場合に、業務から離れなければいけませんか?
 O157などの腸管出血性大腸菌感染症に対する伝染病予防法の適用は、通常の場合と異なり限定的に行われます。就業制限の対象となるのは、検便で菌が陰性化するまでの期間で、直接に食品を扱う職種などに限られています。
 従って、例えば、飲食店の調理員には就業制限がかかりますが、その飲食店の会計係には就業制限はかかりません。また、ウエイトレスやウエイターなどは、その業務内容が、飲食物の単なる運搬業務であれば就業制限はかかりません。
 これらの就業制限は、同じ職場の他の業務につくことを禁止したものではないので、菌が陰性になるまでの一時的な業務の変更などで対応可能です。誤った知識や誤解から、保菌者が解雇されるなどの社会的不利が生じないよう、注意が必要です。
Q47  厚生省ではどんな対策を行っているの?
 厚生省では平成8年3月に食品衛生調査会食中毒部会に大規模食中毒等対策に関する分科会を設置し、近年の食中毒事例の大規模化問題を検討しておりましたが、平成8年5月以降、O157の食中毒が大量に発生したことから、次の対策を行っています。
1 発生予防対策(食中毒予防対策)


 O157による食中毒の発生を予防するため、昨年来、集団給食施設等に対する監視・指導の強化、とちく場・食肉処理場における衛生管理の徹底等を実施してきました。
 具体的には、次のことに取り組んでいます。
(1) 食中毒予防のための家庭用手引の普及
 家庭に対して食中毒を予防するための調理上の注意事項を示した家庭用の手引(平成9年3月作成)の普及を図っています。
(2) 大量調理施設衛生管理指針の普及
 集団給食施設等の大量調理施設における食中毒の発生防止を図るため、調理工程等における重要管理事項を定めた大量調理施設衛生管理指針(平成9年3月作成)の普及を図っています。
(3) 食肉の衛生管理の徹底
 平成9年4月に施行されたとちく場衛生管理基準の実施状況の点検を都道府県にお願いしています(平成9年4月〜)。
(4) 食材の汚染実態調査
 O157による食材の汚染実態について、全国的な調査を行い(平成9年4月〜5月)、注意喚起を行っています。
(5) 学校給食施設の一斉点検
 学校給食施設の一斉点検を実施し(平成9年4月〜5月)、改善指導を講じています。
(6) 集団給食施設の衛生管理者の研修
 集団給食衛生管理者に対し、食品の衛生管理に関する研修を実施するよう、都道府県に対し求めています。
(7) 集団給食施設用指導ビデオの普及
 集団給食施設の衛生管理に関する指導用ビデオを作成し、その普及を図っています。
(8) 国民への普及啓発
 多様な媒体や方法を通じ、国民に対して食中毒の発生防止に役立つ情報を提供しています。
2 原因究明対策
(1) 食中毒発生時の対策要領の改訂
 都道府県等において、食中毒が発生した場合の対策要領を予め定める等必要な措置を講じるよう求めています(平成9年3月通知)。
(2) 食中毒調査のための指針の普及
 保健所が行う食中毒調査の具体的な実施方法を定めた食中毒調査の指針(平成9年3月作成)の普及を図り、必要に応じ、菌のDNAの型の確認を行うよう都道府県等に対して求めています。
(3) O157の検出・解析技術の向上
 O157の迅速かつ確実な検出・解析等を行うため、国立感染症研究所において地方衛生研究所の研究員等を対象として、パルスフィールド電気泳動法、ビーズ法による菌の分離等に関する研修を実施しました。
(4) 食品からの検出方法の改訂
 研究班の成果を受け、食品中からのO157検出方法を改訂しました(平成9年7月)。
3 診断治療対策
(1) 「一次、二次医療機関のためのO157感染症治療のマニュアル」
 医療機関においてO157を早期に診断し、早期に適切な治療が実施できるよう、調査研究等によって新たな知見が得られた場合には、情報を更新するとともに、医療機関に対する迅速な周知を行っています。
(2) 治療薬の治験の推進
 O157による重症化の防止効果が期待されるベロ毒素吸着剤について、治験が進められています。治験の実施にあたっては、実施施設が全国的に配置されるとともに、菌の確認が迅速に行われた上で治験が行われるようにしています。
(3) 迅速診断薬の開発普及
 O157による重症化を防止するためには、迅速な診断が不可欠です。
O157の迅速で簡便な診断法を早期に開発するとともに、企業に対し早期に供給するよう指導しています。
Q48  O157についてどんな研究をしているの?
 O157の研究はこれまで多角的な視点から行われており、本年も引き続き重点的に研究することとしております。現在までに行われた主な研究成果の一部を紹介します。
1 食肉の汚染実態に関する研究
 4,185頭の牛糞便及び2,534頭の枝肉について腸管出血性大腸菌O157の検査を実施し、58頭の糞便(1.4%)及び7頭の枝肉(0.3%)からO157を分離した。
2 O157の細菌学的評価等に関する研究(安全な調理方法)
(1)野菜の洗浄に関する研究
 キャベツ、レタス、キュウリの一般細菌に対して、フマル酸製剤に顕著な除去効果がみられ、ついで次亜塩素酸製剤と中性洗剤に一定の効果が認められ、野菜によっては水のみでも若干の効果が認められた。
(2)湯がきによる野菜汚染細菌の死滅に関する研究
 貝割れ大根、キャベツ、レタス、キュウリ上の一般細菌と大腸菌群は、100℃の湯で5秒間または60℃の湯で1分間加熱することによって顕著に減少することが認められ、とくに大腸菌群に対して大きな効果が認められた。なお、ビタミンCの損失は、60℃1分間の湯がきでキュウリでは12%の損失、他のものは8%以下であった。
(3)O157の加熱致死に関する研究
 同じO157でも、菌株の違いにより熱抵抗性に差があることがわかった。今回扱った菌株に関するかぎり、50℃では20〜24時間の加温、60℃でも25分以上の加熱が望ましいと考えられた。
3 ハエ類によるO157の伝播に関する調査研究
 イエバエのO157摂食感染実験では、O157菌はイエバエ消化管系(特にそ嚢)で4日間は顕著に保持され、その間菌を排泄するハエも確認された。
4 O157のDNAパターン分析に関する調査研究
 O157をパルスフィールド電気泳動(PFGE)等で、解析した結果、平成8年度起こった18例の集団発生例を中心に型別すると6つの型に分類できた。散発発生例の多くは、上記6型の範疇には入らず、200種以上に分類できた。
5 ベロ毒素吸着剤の in vitro(試験管内)有効性と臨床応用への展望
 ベロ毒素の特異的吸着剤について、in vitro(試験管内)有効試験を行った。吸着能とその安定性、特異性などからその有効性が期待できる。臨床での迅速診断には免疫学的検査法がPCR法や培養法に比較して簡便性、迅速性において優れており、O157の感染を早期に推定し、吸着剤の適用を決定する手段としては有用であると考えられた。
6 抗菌剤が治療に有効かどうか、特にHUSの合併率を減少させるかどうかの調査研究
 ホスホマイシンがHUSの合併率を減少させる可能性があることがわかったので、引き続き調査研究を行っている。
Q49  どこに相談すればいいの?
 最寄りの保健所で健康相談を受けることができます。その上で、二次感染の恐れがあり、健康に不安を抱いている方等に関しては、検便が受けられます。なお、下痢などの症状のある方は、かかりつけの医師の受診をお勧めします。




ご協力いただいた専門家
安居院宣昭 国立感染症研究所昆虫医科学部長
石塚五十夫 千葉県衛生部副参事
伊藤 武 東京都立衛生研究所微生物部長
井上 栄 国立感染症研究所感染症情報センター長
植松 智之 東京都生活環境部食品保健課長
大月 邦夫 地方衛生研究所全国協議会長 群馬県衛生環境研究所長
熊谷 進 国立感染症研究所食品衛生微生物部長
小池麒一郎 (社)日本医師会常任理事
小林 町子 (社)全国学校栄養士協議会会長
島田 俊雄 国立感染症研究所細菌部腸管細菌室長
竹田 美文 国立国際医療センター研究所長
田村 和満 国立感染症研究所細菌部外来性細菌室長
中村 明子 東京大学医学部客員研究員
丸山 務 麻布大学保健環境学部教授
村田三紗子 東京都日本橋保健所長
柳川 洋 自治医科大学公衆衛生学教授
和田 昭仁 国立感染症研究所細菌部
渡邊 治雄 国立感染症研究所細菌部長

*上記資料は厚生省より抜粋しました。